東大病院 市民公開講座②

昨日に引き続き、市民公開講座の講演のご紹介です。

第1部の2講演目は「50%の笑顔」で浜田勲さんと由紀子さんご夫婦の講演でした。

こちらは浜田勲さんのあまり例のない耳下腺・腺様嚢胞癌という「QOL」に大きく影響する癌についてでした。スライドを使用しての説明やこの時、由紀子さんはどう思った?等とご夫婦でQ&A形式のやり取りをしながらの講演でした。

浜田さんは頭頸部がんにある「アピアランス(容姿)」にも関係してくるがんということでこの先の人生にも不安が募ったそうです。異変から数年後の受診で発症が分かり、その時は既に数か月単位の余命とのことでした。また、手術をしても、外見や味覚、顔面神経の切除で表情も作れなくなり、一生流動食のような食事しか取れないというものでした。まさに日常生活に影響を及ぼすことは確実でした。しかし、浜田さんは「命」を考え生きることを選択し手術を決心しました。

ここでふと気づいたことがあります。それは浜田さんの言葉で、何故自身の体に違和感を感じながら数年も過ごしたのか。折に触れ病院に行ったにもかかわらず、見逃してしまったのか。それは、まさか自分ががんになるなんて。しかも顔の中にがんが出来るとは思わなかった。とおっしゃった事です。これは、向井さんもおっしゃっていた事です。これだけ情報が潤沢にある世の中で「がん」に対する知識や予防法も見聞する事も多いはずです。

にもかかわらず、「まさか自分が」という過信が芽生えるのは、誰しも「がん」と言う存在を無意識のうちに拒絶しているような気がしました。「がん」は早期発見すれば完治する、医療も発達しているとは言えども自分とは無関係と思いたい気持ちが私たちのどこかに願望として存在しているかもしれません。「自分に限って」という考え方は病気に限らずありますが、「命」を守るという意味ではその考えを改めなければと感じました。

浜田さんは、結婚記念日の後に手術をすることにし、今後出来なくなるであろう由紀子さんとのレストランで食事をし、その後も手術の前日に至るまで大きく口を開くハンバーガーを食べたり、焼肉やチキンバケットを食べる写真がスライドで紹介されました。どれも由紀子さんが撮影されたものですが、当時のお二人の気持ちを思うと切なくなりました。

手術は、耳下腺、顎関節や右半分の顔面神経の切除等と同時に眉や口角のリフトアップ、瞼の裏にプレートの錘を入れる他の再建手術も同時に行われました。顔を手術することは恐怖のなにものでもなく、しかしながら「手術=生きるため」を選択した以上、この先の人生楽しくなければいけないと思ったそうです。一番ショックだったのはがんの告知はもちろんですが、「何もしなければ余命が月単位」と言われた事だったとお話しされていて、その言葉はとても重く感じました。術後は、その意思が通じたのか回復から退院までも予定より早く、なんと病院を出た足でファミレスに行ったそうです。由紀子さんとは、ある約束をしていて術後は食事をする際は自分の前へ座って欲しいとお願いしました。それは、手術したことで食べ物をきれいに食べることが出来なくなり、口から出たもの顔などについてしまう為それを教えて欲しいとの思いからでした。退院後は、放射線治療のため週5日通院になります。その上で由紀子さんが、浜田さんに考えたリハビリはとてもユニークなものでした。

「日本で一番広いリハビリ施設」とお話ししてくれた場所は、なんとディズニーランドでした。何故?という問いに、今まで何事もなく楽しく暮らしてきたのに、手術で家に引きこもってしまう不安があった。何か楽しいことをと思った時、通院の通りすがりにディズニーランドがあり立ち寄りがしやすかった事と人と接することで免疫を付けてほしかった。明るい音楽やキャラクターで皆楽しそう、園内は広く沢山歩くことも出来る等良いことづくめで年パスを購入し通ったそうです。由紀子さんの発想には驚きましたが、そのことで今の浜田さんがあることを思えばディズニーランドが単なる遊園地の枠を超えて「リハビリ施設」というのも納得です。浜田さんの締めくくりの言葉は、「明るく過ごすこと、明るさはがんサバイバーにとってとても大切」でした。顔の表情を失って生きること、表情を作れない悲しさ、見た目は50%の笑顔だけど、心の中は100%の笑顔、それが相手に届いていれば、周りも変わらないとしっかり前を向いてお話しされている姿に信念を感じました。浜田さんは、この体験を由紀子さんに勧められ(これもリハビリの一種)をブログで綴っています。休憩時間や講演後に来場された方にブログを読んでます、励まされました等花を渡される場面を目にしました。写真や握手を求める方も多く、とても和やかな雰囲気でした。ご夫婦の体験やお人柄などが多くの方々の励みとなる存在となっていることは、この先双方にとって生きる原動力にもつながると思います。

 

第1部の3講演目は、東大病院がん支援センター相談員の安田恵美さんでした。東大病院には、がん相談支援センターが設置されています。この支援センターの利用方法などをスライドを使用しながら解りやすくご説明頂きました。高度医療やセカンドオピニオン等の治療についてや仕事や金銭的な生活についての相談が出来る。治療について医師に相談しづらい、または医療専門用語が理解できない、上手な伝え方の戦略練る等のアドバイスを行っているそうです。治療しながらの生活に不安がある方が多いが、慌てて仕事を辞めたりしないようにとお話しされていました。もし、がんになったら一人で悩まず誰かに相談してみる、自分の病気・体調を理解する、信頼できる情報をつかみとる→国立がん研究センター、がん情報サービス(WEB)の利用をすること、がんのことだけでなく楽しい生活を心がけることも大切だということでした。質疑応答の時間では、がん相談支援センターはその病院の受診がなくても大丈夫ですか?と質問がありました。受診病院に関係なく相談は可能で、本人以外のご家族など、どなたでもOKとのことでした。また、電話で相談したい場合の相談時間についても質問がありました。病院によるが、20~30分位が一般的で面談は1時間と決めているところもある。東大病院は特に時間は設けていないが、相談が長くなる場合には、何回か分けて相談という形をとることもあるそうです。